低カリウム化栽培の原理

低カリウム化栽培の原理を説明していきましょう。植物の生長にはカリウムは不可欠な栄養素です。そのカリウムを減らす方法とはどのようなものでしょうか。

低カリウム化栽培を説明する前に、硝酸性窒素を低減した野菜の栽培方法を説明しましょう。基本的には、低硝酸性窒素化栽培も、低カリウム化栽培も同じ原理によるものです。

低硝酸性窒素化栽培の原理

硝酸性窒素は、発がん性があるかもしれないと言われ、軽減したほうがよいと言われています。しかし、硝酸性窒素も植物の生長には欠かせない栄養素です。硝酸性窒素がないと、植物は生長することができません。

では、どうやって硝酸性窒素を減らすのでしょうか?

収穫の1週間前に、硝酸性窒素の入っていない栽培養液に変更する。たったこれだけです。植物は、硝酸性窒素が外部から吸収できなくなるので、植物体内にある硝酸性窒素を使って光合成を行うようになります。そして、植物に吸収された硝酸性窒素は、光合成によって、アミノ酸に合成されていきます。

要するに、減らしたい成分を吸収できないようにして、植物体にある成分を薄めたり、他の成分への変換を促進することになります。硝酸性窒素は、外部からの供給を遮断して、光合成を促せば、少なくなっていきます。

低カリウム化栽培の原理

カリウムは、硝酸性窒素とは異なり、光合成でアミノ酸や他の物質に変換されることはありません。カリウムイオンとして、植物体内に残ります。

植物体内のカリウムを減らすということは、カリウムが外部から取り込めないようにして、カリウム濃度を薄めるということです。カリウムの総量は変わりませんが、濃度が薄まるということです。

植物の95%は水分でできていますから、カリウム濃度を薄めるには、大量の水分を取り込むことです。大量の水分を取り込むためには、植物体が大きく育たなければなりません。

では、カリウムが含まれない養液で、植物は生長できるのでしょうか? 外部からのカリウムの供給が途絶えても、植物体内にはカリウムが残っています。植物は、体内にあるカリウムを、必要とする部位に移動することができます。この現象を、転流といいます。転流により、不足したカリウムを補いつつ、光合成を行い、生長を続けることができます。しかし、体内のカリウムも不足してきます。すると、植物は、緊急事態に対応する遺伝子を発現させます。

先ず、養液中に僅かに含まれるカリウムを極限まで吸い上げるようになります。この時に、カリウムとよく似た成分まで吸い上げてしまいます。カリウムと類似した大きさの成分には、ナトリウムやマグネシウムがあります。

ナトリウムの吸収

水道水には、消毒のために次亜塩素酸ナトリウムが入っています。このナトリウムを全て吸い上げようとします。養液中にナトリウムがたくさん入っていた場合には、ナトリウム濃度が高くなりすぎます。植物自体が塩味ぽっくなります。透析患者や高血圧症、糖尿病患者には、ナトリウムは少ないほうがよいので、植物が吸収するナトリウムの量は制限しなければなりません。

ナトリウム

上のグラフは、養液のナトリウム濃度を変えて栽培したものです。マグネシウムが少なく、ナトリウムが多い場合には、植物体内のナトリウムも非常に多くなります。カリウムをなくすだけでも、ナトリウムの量が増えます。これは、水道水のナトリウムを積極的に取り込むからです。養液中にナトリウムがない場合には、生育不良となります。水道水に入っているナトリウムの量だけでは不足するからです。

通常ナトリウム

ナトリウムは、通常の栽培養液には入っていません。通常栽培の玉レタスやグリーンウエーブでは、ナトリウムは殆ど検出されませんが、低カリウム化養液にナトリウムが入っていた場合には、ナトリウムが大量に含まれてしまいます。生育が悪くならず、ナトリウムも増えない程度に、養液にナトリウムを投入しなければなりません。

マグネシウムの吸収

養液中のナトリウムを全て吸い上げた後は、次に、大きさが同じくらいのマグネシウムを吸い上げようとします。マグネシウムは苦土とも呼ばれ、苦味やエグ味の原因ともまります。また、病状によっては、マグネシウムの摂取を制限したほうがいい患者もいます。植物が吸収するマグネシウムの量も制限しなければなりません。

マグネシウム

上の図は、養液中のマグネシウム量を変化させた場合の、植物体中に含まれるマグネシウムの変化です。養液中のマグネシウム量に応じて、植物体中のマグネシウムも変化することが分かります。養液中のマグネシウム量も制限しなければなりません。

リンの吸収

マグネシウムの次は、リンやカルシウムを吸収しようとします。リンも少ないほうが好ましい患者が多いために、植物が吸収するリンの量も制限しなければなりません。しかし、リンは、植物体内では、ナトリウムやマグネシウムのように、急激には増加しない傾向にあります。

リン

養液中のリンの量を変えても、植物体中のリンの量は、あまり、大きくは変化しません。しかし、養液中にリンが多いと、カルシウムの吸収を抑制するために、カルシウム不足になりがちになります。

カルシウムの吸収

カルシウムに関しては、日本人の食生活ではカルシウムが不足しがちと言われています。そのために、野菜からカルシウムを摂取できる方が好ましいでしょう。植物体内のカルシウムは、養液のカルシウム量を増やし、リンを少なくすることで高めることができます。

カルシウム

上の図で、養液中のカルシウム量が多い場合には、植物体中のカルシウムも多くなることが分かります。しかし、リンの量が多い場合には、植物体中のカルシウムは少なくなります。カルシウムは、牛乳並の100mg/100g以上に増やすことができます。

低カリウム化養液

このように、単にカリウムをなくした養液で栽培すればよいというものではなく、カリウムがないために引き起こされる植物の反応に即した成分配合の低カリウム化養液を使わなければなりません。

カリウム

低カリウム化栽培キットの低カリウム化養液は、このように様々な成分の配合比率を変えて栽培して、もっとも生育がよく、また、植物体中のカリウムが低くなる配合に設定してあります。

低カリウム化栽培結果

低カリウム化栽培前後の成分の変化を図で示します。低カリウム化前には、341mg/100gのカリウム濃度が、低カリウム化後は、89mg/100gまで下がっています。73%もカリウムを低下させています。ナトリウムやリンの上昇は抑えられています。カルシウムはまだまだ増やせると思われます。

低カリウム化

但し、カリウム量は、栽培品種や食べる場所によっても変化します。生育中の葉っぱの先端ほど、カリウム濃度は高くなり、茎に近いほどカリウム濃度は低下します。水分を多く含む部分ほど、カリウム濃度は低下します。

部位違い

市販されている低カリウムレタスが、茎の部分が多いのはこのためでしょう。茎の部分には、葉緑素が少ないので、抗酸化物質も少なくなっています。

 

通常栽培レタスの成分比較

食品成分表に、通常栽培レタスの成分が掲載されています。レタスの品種や栽培方法によっても成分量は異なっています。土耕栽培の結球レタスがもっともカリウムが少ないようです。

 

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