低カリウム化栽培の原理が理解できたところで、次は、どのようにカリウムが減少するのかを説明いたします。
先ず、低カリウム化しない場合、植物体中のカリウムは直線的に増えていきます。そして、生長が止まる頃には、一定値に到達します。
低カリウム化栽培を開始すると、最初は、植物の重量が増える毎に、直線的にカリウム濃度が低下しますが、その後、カリウム濃度が減る速度が低下します。このグラフがなだらでないのは、各測定点で個別の植物個体を測定しているための個体差と考えられます。カリウム濃度の測定は、現在のところ、破壊試験しか方法がありません。非破壊試験で同一個体を連続測定すれば、なだらかなカーブが記録されるはずです。
低カリウム化過程の定式化
植物を栽培する養液を、カリウムを含むものから、カリウムを含まない低カリウム化養液に変えた場合、植物は、養液中からカリウムを取り込めなくなります。低カリウム化する前の植物全体に含まれるカリウム総量を[mg]、カリウム濃度を[mg/100g]、重量を[g]とします。養液からカリウムを取り込めなくても、光合成ができれば植物体の体積は増えていきます。植物体の95%は水分であり、水分は十分に取り込むことができるので、体積が増えた分、重量も増加します。収穫時の重量を[g]とすると、カリウム総量[mg]は、低カリウム化前と同じなのでカリウム濃度[mg/100g]は、自重が増えるに連れ[mg/100g]よりも少なくなります。ゆえに、低カリウム化後のカリウム濃度[mg/100g]は(3)式で表すことができます。
栽培開始時と収穫時の重量比がカリウム濃度減少率となる。これより、低カリウム化前の苗の重量とカリウム濃度が既知であれば、所定の重量になるまで栽培すれば、目的の低カリウム化が達成できます。
しかし、ここでは、カリウム総量が植物全体のカリウム総量のことであり、可食部以外の根部も含まれています。可食部だけのカリウム総量に注目すると、根部からのカリウムの転流が起こるために、低カリウム化の過程で上昇すると考えられます。植物の可食部のカリウム総量を[mg]、カリウム濃度を[mg/100g]、重量を[g]とします。水分は十分に取り込むことができるので、体積が増えた分、重量も増加するでしょう。不足したカリウムは根部から転流してくると思われます。根部から転流してくるカリウム量を[mg]、収穫時の可食部の重量を[g]とすると、可食部のカリウム総量[mg]は根部からの転流量分増加するでしょう。
根部からの転流があるので、カリウム濃度減少率は栽培開始時と収穫時の重量比よりも小さくなる。
根部の総カリウム量は可食部の総カリウム量に等しく、根部からの転流は可食部の重量増加に比例すると仮定すると、
となる。(6)式に(7)式を代入すると(8)式になる。
これより、低カリウム化前の苗の可食部の重量とカリウム濃度と根部からの転流が既知であれば、可食部が所定の重量になるまで栽培すれば、目的の低カリウム化が達成できる。ところが、収穫時の重量を[g]は容易に測定できるが、可食部の重量[g]は地上部を切断しなければ測定できない。一度、切断したら、さらに生育させることができなくなる。そこで、切断することなくを推定する。根部の重量は、根と苗カップとスポンジ培地、及び、スポンジ培地が含む養液で決まる。苗カップとスポンジ培地が含む養液の重量が支配的であるために、低カリウム化栽培前の根部重量とほとんど変わらないのでとすることができます。
(8)式より、収穫時の可食部の重量が推定可能になるでしょう。(8)式に(10)式を代入すると(11)式になります。
,,は事前に計測可能であるので既知の値にできる。なお、カリウム濃度や転流量は栽培品種によって異なるので、品種毎の測定が必要になります。
上の図の緑色が、11式を適用した結果です。黄色は、根部からの転流を無視した場合の結果です。根部からのカリウムの転流があることが分かります。
以上で、低カリウム化栽培中の植物の重量から、その時のカリウム濃度が推定できます。収穫して可食部を切り離して、8式で再度、カリウム値を推定すれば、より正確な結果が得られます。